A review by galaxybanjo
ハーモニー〔新版〕 by Itoh

4.0

第40回星雲賞(日本長編部門)、第30回日本SF大賞受賞、2010年フィリップ・K・ディック賞特別賞などを受賞した国産SFの傑作。劇場アニメでは(恐らく2時間の枠内に収めるために)多くのディテールやシナリオが割愛されており、先に劇場版だけを観た身としては原作を読むまで「普通?」程度の評価だったが、原作を読んでようやく数々の称賛の根拠が理解できるようになった気がする。
本作で特に素晴らしく描かれているのは個人の人間性の価値と社会のリソースとしての個人の価値を紐解く描写であり、著者は物語を通して我々が現代社会において自ずと抱いている感情を見事に言語化している。
また、物語のクライマックスも非常に美しく描かれており、個人的には映画よりも原作で文字としてインプットされた時の衝撃の方が何倍も強く心に刺さった。
強いてダメ出しをするなら、世界観の一部にはやや信じがたい描写も幾つかあるが、これらに関しては「SF」作品としての許容範囲内であると思うので、リアリズムに対して極めて神経質でない限りは終始面白く読める筈だ。